朧咲夜1-偽モノ婚約者は先生-【完】
そう決めて、これは雑談、と心の中で呟きながら話を振る。
先生を怒らせるとか嫌われるとか、ほんと無理。
このまま黙ったままは私のメンタルがきつい。
「もうすぐ梅雨ですね。洗濯物が溜まっちゃって大変ですよ」
「……普通はそういう苦労があるんだよな」
「先生は洗濯も苦手ですか?」
「……最低限はやってるつもりだ」
「そういうこと、しに来てくれる人はいないんですか?」
「残念ながら。……少しずつやらないといけないよなぁ」
「だったら私がお手伝い来ましょうか?」
「……助かる」
何気ないことでも会話のネタになってよかった。雨、ありがとう。
しっかし、全く使った気配のないキッチン……。
マナさんが言っていたのは誇張ではないらしい。
でも、いくら先生と知り合いの遙音先輩に言われたからって、さすがに家まで押しかけるのは常識がなかったかもしれない……。
今更だけどそこに思い至って密かに落ち込んでいると、また頭にあたたかな手が乗った。
もうそこは先生の定位置のようになってしまっている気がする。
私が顔をあげると、先生は困ったような顔をしていた。