朧咲夜1-偽モノ婚約者は先生-【完】
「その……すまない、気を遣わせてしまって」
「え、いえいえ。私こそすみません。いきなりお邪魔して……先に連絡しておけばよかったですよね」
連絡先は知っているのだから、そうしておけばここまで困らせずに済んだものを。
先生の性格からして、「そこまで面倒はかけられない」とか断られそうだけど。
「取りあえず……雨止んだら送っていくよ」
「一人で帰れますよ。先生は病人です」
「駄目だ」
「だめって……」
むしろ病人である先生を歩かせる方が駄目だ。
そう思うのに、はっきり言われて苦笑してしまった。
先生も結構頑固だと思う。
私が笑ってしまったのをどうとったのか、先生は難しい顔をする。
「夜道を一人で歩かせられるわけないだろう。華取、そういうところは素直に受けておけ。俺に遠慮はしなくていいから」
やけに真剣に言われて、反論出来ずに肯いた。
……視線負けした気がする。