朧咲夜1-偽モノ婚約者は先生-【完】


「っ、―――っ」


「華取? どうしたっ?」
 

華取がみせたそれは、過呼吸の症状だ。


胸元を両手で絞めつけるように抑えて、呼吸がまともに出来ていない。


見開いた瞳は涙で潤んで、口からは咳とも嗚咽ともとれない苦しい呼吸ばかりが出てくる。


「華取、――華取っ」
 

慌てて対処しようとするが、いきなりのことに頭が追いつかなかった。


対処知識なんていくらでも詰め込んであるはずなのに―――


「――咲桜!」
 

どうすればいいか、知識としては知っているはずなのに、華取を抱きしめていた。


大きく背中に手を廻して、息が出来るように胸は空間を作っておく。


「大丈夫だ、咲桜。落ち着いて。大丈夫、呼吸、俺に合わせて」
 

ポンポンと、リズムを作るように背中を叩く。
 

咲桜、大丈夫、苦しくない。


その言葉を繰り返していると、華取の呼吸は落ち着いてきた。

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