朧咲夜1-偽モノ婚約者は先生-【完】


長く息を吐いて、吸って、また吐き出す。


それを何度かして、華取はこちらを見上げた。


涙でボロボロになった表情(かお)。


唇を噛みしめていて、なにか言いたげな顔だ。
 

呼吸は落ち着いている。近づいた所為でわかる心音も、安定している。


「ごめん、また、まずいことを言ってしまったか?」
 

近づきたいと思ってしまった。そして問いかけてしまった。


その直後のことだから、邪な心を見透かされようで。
 

華取は、唇を噛んだ。


けれど離れようともしないから、俺はそのまま抱きしめた腕を離さないでいた。


何がそんなにつらいんだ。苦しそうにしているんだ? 


……大丈夫か? お前は……俺が傍にいても、大丈夫か?


「……くび、だめなんです、わたし」
 

華取は小さな声で言って、腕の中で再び俯いた。


「くび?」


「首に、なにか触るの、だめ、なんです……」


「……なにか、いやなことでも?」

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