朧咲夜1-偽モノ婚約者は先生-【完】


「母さんが死んだ日のこと、憶えてるのに、わたし、死んだ瞬間は、知らないんです」


「………」


「母さんが、わたしのほっぺた、触って、『ごめんね』、って……言ったんです。それから、次にある記憶は、ただ父さんが母さんの名前、呼び続けて、母さんは、動かなくて……。それから、首に何か触ると過呼吸、起こすようになっちゃって……」
 

咲桜の呼吸を楽にするために空けていた隙間が、もうない。


ただ、抱きしめる。


「母さん、一人で死んじゃったんです……。私を、つれていかなかった……。……なにもない、私だけが生き残ってしまって……」


「………」


「仕事を犠牲にしてまで結婚した母さんが死んじゃって、その、父親もわからない子供だけ残されて、どうしろって言うんですかね。父さんに、申し訳なさ過ぎですよ、わたし……」

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