朧咲夜1-偽モノ婚約者は先生-【完】


「………」


「どうして……母さんがそこまで、追い詰められていたのか、わからないんです……」


「………」


「……あのとき、私も死んでればよかったんです」


「………」


「私も一緒に死んでいれば、父さんに余計な面倒はかけずに済んだんです……」


「………」


「……ねえ、先生――わたし、父さんにどう謝ればいいんですかね……。わからないんです。…………がんばるしか、わからなかったんです………」


「……咲桜が謝る必要はない」
 

俺の言葉に、咲桜が上を向く。
 

少し距離を開けて、咲桜の顔を覗き込んだ。
 

あふれていた涙は、まだ残っている。


「咲桜が在義さんに謝ることなんて一つもない。あるとすれば、俺の方だ」


「……先生が?」
 

なんでですか? と咲桜の瞳が大きく見開かれる。

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