朧咲夜1-偽モノ婚約者は先生-【完】
洗い物が終わった後にほどかれた長い黒髪はそのままで、頬にかかる。
それを払ってやっても起きる気配はない。
咲桜は学年の女子の中では一番背が高いけど、線が細い。
色々頑固な面も見たけど……。
生まれてきてくれてありがとう、とは、まだ言えない。
言えるのは、生きていてくれてありがとう、だ。
このまま寝顔を見ていたい気持ちが押し寄せるが、そろそろ在義さんの反応も心配になってくる。
あの娘バカさんに色々バレて、逢えなくさせられてしまったらたまったもんじゃない。
やっと見つけたのに。
軽く髪を整えてから、布団をかけてやる。
おやすみ。俺のことを怒ったんだから、お前もゆっくり休め。
リビングで、今日吹雪のところへ行けなかった埋め合わせの作業でもしよう。
そう思ったところで、また吸い寄せられるようにベッドの淵に戻ってしまう。
……それを繰り返していたアホのところへ、テーブルの上のスマホが着信を告げた。
誰だこんなときにっ。
起こしてはまずいと慌てて出ると、夜もお構いなしが安定の降渡だった。