朧咲夜1-偽モノ婚約者は先生-【完】
『よー、りゅう。そっち雨すげーんだって? 大丈夫かー?』
「うるさい」
『あれ、いつもより声が辛辣なんだけど』
辛辣にもなる。
せっかく可愛い寝顔を見ていたのに。
音を立てないように扉を閉めて話す。
「なんだよ。今日は吹雪んとこ行けなくても文句言われないと思うんだが」
『言わねーよ。反対にふゆは署から帰れなくなってるみたいだしな。少し情報交換しねぇ?』
「あいつは……。いつもの範囲でいいんならな」
『おっけー』
明るい降渡の声に、後ろ髪を断ち切る。
あまり見ていてばかりでは咲桜も嫌かもしれない。
パソコンを置いたままの机に戻る。
いつもの範囲というのは、あくまで俺が知っている情報かつ、警察内部に関わって知ったことは除外する、というもの。
同じように降渡も、探偵業関係で知りえた個人情報は示さない了解がある。
時と場合によってその境界は揺らぐけれど。
降渡の質問に答えたり、訊きたいことも訊いておく。
咲桜が目を覚まさないように声はいつもよりひそめていた。
「……せんせい?」