朧咲夜1-偽モノ婚約者は先生-【完】


さっきだいぶ泣いたから、水分をなくしているんじゃないだろうか。


顔を覗き込むと、首を横に振った。


とられた手に力がこもった。……淋しそうな力だ。


「……すみません、でした……」
 

咲桜は、俯いて意気消沈している。


「あんな、こと話してしまって……。忘れてください」
 

触れている手が震えていた。


……どれほどの恐怖だったか。自分の命を否定されたようなものだ。


それには答えず、手を握り返す。


「先生、って呼んだよな。さっき」


「……え?」
 

咲桜の顔があがる。こういう素直な反応は咲桜の長所だ。


「何回も言ってたろ。名前で呼べって言ったのに」


「それは――無理ですよいきなりっ」
 

ちょっと泡喰った様子がいつもの咲桜で、安心する。


大丈夫。この子は完全には呑まれていない。

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