朧咲夜1-偽モノ婚約者は先生-【完】


「咲桜? どうした? ……苦しくなったか?」
 

ぶんぶん、と、俺の顔の脇で、咲桜の首が横に振られる。


「今は偽モノ、だけど――」
 

咲桜が少し空気を吸って、巻き付く腕に力がこもった気がした。


「私が流夜くんの家族になる」


「―――」
 

呆気にとられた。
 

まさかそんな考え方に行きつくなんて。
 

今まで、吹雪や降渡、ほかにも龍さんや在義さんと、近くにある人たちは俺の家族にあった事件を知っている。


けれど、まさか『家族になる』なんて言われたことはなかった。


「咲桜……」
 

いつもはすぐに対応が出来る頭がうまく動かない。


どうして? 咲桜の言葉が嬉しすぎる。


「私が、流夜くんを大丈夫にするから」
 

苦しいほど抱き付かれて、抱きしめ返した。

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