朧咲夜1-偽モノ婚約者は先生-【完】


軽く私の額を小突いて、ベッドを降りていく。


少し淋しそうに見える背中。


……記憶にない自分はなにかやらかしたようだ。


「流夜くんっ、私、なにし――」
 

あれ? 流夜くん?
 

咄嗟に出た呼びかけに、自分で驚く。


流夜くんのことは『先生』と呼んでいたはずなのに――そう言えば、『流夜って呼べ』とは言われた記憶がある。


けれどどこか、そこまで至れずにいたのに。


今自分はさらりと『流夜くん』と呼んでいた。


もう『先生』という単語が抜け落ちている。


「咲桜? 今日は学校だろ。早目に家に送っていくから、支度しろ」


『咲桜』。


流夜くんの呼び方も変わっていた。


昨日までは『華取』だったのに。


な、何があった……?
 

ものすっごく戸惑った、けど。……どこかくすぐったく、嬉しい。


気になる背中の淋しさ。でも嬉しい呼び方。


「はいっ」

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