朧咲夜1-偽モノ婚約者は先生-【完】


咲桜の父が誰だか、名前しかわかりません。名前も、本当かどうかはわかりません。気づいたら私は、その人とずっと一緒でした。記憶が曖昧になる時間です。
 

在義さんに見つけていただいたとき、私はその人のことも忘れていました。
 

でも、少しずつ思い出して……いいえ、背けていた目が、向いてしまって。
 

その人は、罪人でした。
 

どのような罪を犯した人か、そこまでは思い出せませんでした。ただ、罪を犯した人。ゆるされない罪を犯した人であるという、認識だけはありましたこと、思い出しました。
 

やさしかったです。
 

わたしには、自分のことがなにもわからないわたしに、その人はやさしかった。
 

それでも気づいたらわたしは、在義さんのところにいました。
 

その人のもとを逃げ出したのか、それとも捨てられたのか。ごめんなさい、そこはわかりませんでした。
 

見つけてくださったのが、在義さんでよかった。
 

わたしのせいでお仕事をなくしてしまったり、謝っても謝り切れない優しさを、あなたにいただきました。
 

見つけてくださって、愛情をくださって、ありがとうございました。
 

在義さんの愛情と、咲桜の存在だけが、私が持つことをゆるされた真実でした。
 

ごめんなさい。わたしはやはり、あなたの傍にいるべきではなかった。

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