朧咲夜1-偽モノ婚約者は先生-【完】


「娘ちゃんが?」
 

在義さんの返事を聞いて、龍さんは俺を振り返った。


「流夜。勘違いする前に言って置くが、桃子はこれを遺して死んだワケじゃねえ。自殺でもない。これは桃子が亡くなったあと、桃子の手帳から出て来たもんだ。娘ちゃんの発作は知ってる。たぶん、桃子が書いたことが原因だろう。……在義と娘ちゃんに申し訳ねえ気持ちだけは、終生消せなかったんだろうな」


「……補足をありがとう、龍生。……あの、流夜くん? まだ涙ひかないの?」
 

未だにボロ泣きしている俺を、心配そうな顔で見てくる在義さん。


慌てて拭った。


泣いたのなんていつぶりだろう。


……バカ弟の教育に失敗したと知ったとき以来かもしれない。


「すみません……。咲桜の母親が、咲桜のことを疎んだり嫌っていたわけじゃないってわかったら……」
 

安心した。……とは、少し違うかもしれない。
 

咲桜が嫌ってはいない母が、咲桜を嫌っていなくてよかった。


……そんなところだろうか。


「……罪人、ってところに反応するかと思ってたよ」
 

在義さんは肘掛けに頬杖をついて言った。


言われて、俺もはっとする。

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