朧咲夜1-偽モノ婚約者は先生-【完】


「だから君には――勿論、今まで咲桜に関係がなかったから、ていうのもあるけど、見せなかったんだよ。不用意に傷つけたくはなかったから」


「………」


「……傷付いては、いないようだね」


「はい。……むしろ、俺の方が非道いことを思っていると思います」


「非道いこと?」
 

在義さんが問い返す。


「……咲桜の母君が、どんな思いでいたか、俺には計り知れないところです。でも――、すみません。俺は咲桜に逢えて嬉しい。咲桜がいてくれてよかった。咲桜が生まれてきてくれて、ありがとう、咲桜を生んでくれて、ありがとう、と……桃子さんに、思ってしまいました。在義さんにも咲桜にも、母君も、俺の方が傷つけてしまうことを思ったかもしれない……」
 

罪咎(つみとが)と、自分を断罪した桃子さん。


それでも、その罪の末だとしても――咲桜の存在は、掛け替えがない。


咲桜に巡りあえて、自分は幸せだ。


「……桃は、本当に自殺ではないよ」


「………」
 

在義さんの声は穏やかだった。

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