朧咲夜1-偽モノ婚約者は先生-【完】


「……流夜くん?」
 

咲桜の心の声を聞いたのは何度目だろう。


聞くたびに咲桜の抱えるものを知って、放っておけなくなる。


過去にあった自分に近いからかもしれない。


俺自身、奪われてきたものは計り知れない。


手の中にあったはずのものも、ないものとして生きなければならなかった。
 

その辛さも淋しさも、咲桜に近い位置でわかると思う。


だから、自分の腕の中に置いておきたくなる。


大丈夫だって。ここにいていい、って。


……ここにいてほしい、って。俺がそう望むんだ、て。


「咲桜、今のは駄目だ。どうしても」


「……どれ?」


「自分を嫌いって言ったのは、俺がゆるさない」


「……きらいなんだもん」
 

子供っぽい喋り方。

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