朧咲夜1-偽モノ婚約者は先生-【完】
私は、髪は長い方だと思う。短くてバサバサしながらマメに切らないといけないより、伸ばして括った方が動きやすいという持論がある。
……しかし今日の格好を褒められても困ってしまう。
「これは……気絶させられている間にやられました……」
「あら。もしかしてお師匠?」
「たぶん。裏山逃げてる途中から記憶が飛んでるので」
「本当にお元気ねー」
その根本の原因を作った張本人は、あっけらかんと笑う。
これがマナさんだ。
しばらく私の髪をいじっていた手が、ふと下りる。
「……咲桜ちゃんに、一つお願いしてもいいかしら」
「? なんですか?」
「流夜くんのことなんだけどね、あたしの目的っていうか――咲桜ちゃんの相手を流夜くんにした理由の一つでもあるんだけど」
「………」
ごくり、と息を呑んだ。
マナさんの口から何が聞かされるのだろう。
私だけに話すなんてこれは、先生たちには聞かせられない話なのか――。