朧咲夜1-偽モノ婚約者は先生-【完】


「早くに母親を亡くしていて、私もあまり家にいられなかった。育児はお隣に任せてしまった時期もある。それなのに、帰ってきたら新しい料理を覚えているし、掃除もしようとがんばっている。……あの子の叶えられる幸せだけは、私は譲れない」


「………はい」
 

これはたぶん、在義さんの審査だ。


仮とはいえ、対警察内部用に結ばれた婚約。密約。


俺をはかっている。
 

在義さんが、箸を置いた。俺も同じように姿勢を正す。


「流夜くん、素直に聞かせてほしい。咲桜のことをどう思った?」
 

どう思った。思う、ではなく、その形で在義さんは訊いた。
 

問われて、考える。


この場ではどう答えるのかが最善か――ではなく、確かに自分は、華取をどう思ったかを。
 

そちらで答えるべき気がして、考えた。

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