朧咲夜1-偽モノ婚約者は先生-【完】


「夕飯のお礼です」
 

また在義さんに下手な疑惑を持たれるのは嫌だったので、そう誤魔化す。
 

在義さんは、少し嬉しそうで、少し淋しそうな微笑を見せた。
 

食器を片付けたあと、悩んでいたことを口にした。


「やっぱり、挨拶くらいしておきたいんですが……」
 

時間としてはもう眠っているだろう。


それでも、一応の礼儀というか。


「ああ、二階の突当りの部屋なんだ。起きていたら、ノックすれば出てくるだろう」
 

意外、親バカな在義さんがあっさり許可した。


……いいのか?
 

とわざわざ問い返すのも野暮なので、着ていたジャケットを持って階段を上った。


一度声はかけて、反応がなかったらすぐに帰ろう。


もし起きていたら、連絡先だけ訊いて早く休ませよう。


そう決めて、言われた部屋のドアをノックする。


「はーい」
 

少し眠たげな声が返ってきた。起きていたのか。


「どうしたー?」
 

俺が名乗る前にドアが開けられ、顔を見せた華取はびっくりしていた。


いつも結んでアレンジしている黒髪は、寝る前だからか解かれていて、それが面差しの大人っぽさに拍車をかけるようだった。


「あれ、先生?」

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