朧咲夜1-偽モノ婚約者は先生-【完】


「料理はすきですから負担なんかじゃないです。私は先生に護られているという状況ですから、そのお礼みたいなものだと思ってください。毎日持ってきます」


「だからそれはもう気にしなくていい――」
 

護られてるとかそういう話はもう終わりで――、そう言おうとしたら、華取の方が先に口を動かした。


「気にしているわけではないです。私の気が収まらないだけで。だから先生は私のわがままを押し付けられているだけです。いらなかったら捨ててください」
 

……そこまで言われては、もう受け取らないわけにはいかない。


昨日の夕飯も美味しかったし。


「……なら、ありがたくいただく」


「はい」
 

見せる、華がほころんだような笑顔。


普段大人びて見えるだけに、その笑顔に漂う幼さがやっぱり愛らしい。


……昨日から俺の頭の中は花でも咲いたか? 変な単語ばっかり浮かぶ。


「明日も来ていいですか?」


「俺は構わないけど……松生たちはいいのか?」


「笑満にはこれから話しておきますし、頼は最近落ち着いているんで大丈夫です。疑われないように来ますから」


「……わかった」


「じゃあ、ちゃんと食べてくさいね」
 

言い残して、華取は資料室を出るために背を向けた。


思わず、俺から呼び止めた。


「はい?」

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