朧咲夜1-偽モノ婚約者は先生-【完】


いや、意味としては恋人だけに使われる言葉ではないから、他意は……たくさんありそうだな、あいつ。


遙音は帰り道、既に色々邪推しているだろうが紹介する気はない。


そもそも彼女じゃないし。
 

弁当箱を返すために洗って、華取が渡してきた袋に戻した。


「………」
 

当然のように渡されたそれ。少し見つめてしまった。
 

俺自身、母と呼べる人がいない育ちをしている。
 

華取の母――在義さんの妻がとうに亡くなっているとは聞いているが、俺が在義さんと知り合うより以前のことなので、どんな人かまでは知らない。


在義さんが妻と娘の写真を持ち歩いているらしいとも噂はあるが、お目にかかったことはない。
 

華取の父という意味で在義さんの話を出せば、俺には父もいない。祖父母もいない。


物心ついた頃から、血縁関係のない、龍さんの実家で育っている。


「……あまり近づかない方がいいよな……」
 

ふと、そんなことが口をついた。

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