高桐先生はビターが嫌い。

「!……え、」

「彼氏なんだから、俺がアイリをどこに連れて行こうが俺の勝手だろ。どんな理由があってもな」



そう言うと、ヒトシ君は再び高桐先生からあたしに視線を戻して、近づいてくる。

そしてまた強引にどこかに連れだそうとするから、あたしは怖くなって思わず高桐先生の背中にしがみついた。



「せんせぇっ…」

「!」



…思わず勢いで“先生”と呼んでしまったけれど、その声がヒトシ君にも届いているのかは正直怪しい。

だけどとにかくこの状況をなんとかしたくてそう助けを求めれば、少しの間黙っていた高桐先生が、再び口を開いてヒトシ君に言った。



「っ…だ、ダメです!例え彼氏さんでも、この子は今は渡せません」

「は?お前いい加減に、」

「いい加減にしてほしいのはこっちのセリフです。見るからに嫌がってるじゃないですか。それでも連れて行こうとするんなら警察呼びますよ?」

「!」



高桐先生はそう言うと、真剣な表情でヒトシ君を見つめる。

…高桐先生…

すると、その“警察”というワードに反応したヒトシ君は…



「…クソッ」



やがて悔しそうにそう呟くと、あたし達に背中を向けて、やっとその場を後にした。



「!」



……い、行った…のかな?



「………よ、よかったぁ」

「……」



そして、ヒトシ君が完全にいなくなったのを確認すると、あたしは思わず安堵の声を出す。

ヒトシ君…何だかいつもと違って目が怖かったな。

っていうかほんと、連れて行かれなくてよかったよ…。
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