高桐先生はビターが嫌い。

あたしはそう思うと、助けてくれた高桐先生の方を振り向いて、高桐先生に言う。



「高桐先生ありがとうございます!」

「!」

「もう本当に怖かったんで、助かりましたよ。先生がいてくれてよかったです、」



あたしはそうやってお礼を言うと、「じゃあ帰りましょ」と。

今度こそ、高桐先生と一緒にマンションに帰ろうとする。

今度何かお礼をしますね、と。

あたしがそう言うと、高桐先生は、「お礼はいいよ」と、ぎこちない笑顔を浮かべた。

…先生…?

そんな高桐先生の反応に、あたしが内心不思議に思っていると、高桐先生が心配そうにあたしに問いかけてくる。



「あ…ていうか、平気だった?怪我とかしてない?」

「や、それは大丈夫です!高桐先生が守ってくれたんで、無傷で済みましたから、」

「そう、よかった」



あたしがそう言って首を横に振ると、高桐先生が安心したような顔をして、やがてマンションへと歩きはじめる。

さっきの衝撃で、未だにドキドキはまだ完全にはおさまっていないけど、何だか高桐先生が隣にいるだけで、安心感が生まれた気がした。

…ヒトシ君とは、もう会えないな。っていうか、会わないでおこう。

そんなことを思いながら、高桐先生との静かな帰り道。

特に雑談をすることもなく、お互いに静かにマンションに向かって歩いていたけれど。



「じゃあ先生、また明日」

「!」



その後、やっと最上階の自分の部屋の前に到着した時。

あたしがそう言ってドアの鍵を開けると…



「日向さん、」

「!」



ふいに、高桐先生に呼ばれて。

振り向こうとしたら、その前に高桐先生があたしの背後に回ってきて、ドアを開けるのをそっと阻止された。



「…せ、先生…?」



高桐先生の左腕が後ろから伸びてきて、あたしの目の前のドアにその手をついている。

わ…ち、近い!

だけどどうしていいかわからなくて、どんな反応をしていいのかもわからないあたしは、とりあえず先生を呼んでみるけれど、高桐先生はいつもの調子に戻らない。

それどころか、そのままの状態で、あたしに言った。



「…入るのちょっと待って」
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