高桐先生はビターが嫌い。
あたしはそう言うと、後ろを振り向けずに、思わず早く部屋に入りたい衝動に駆られる。
この感情は、いくらなんでも高桐先生にはわからないかもしれない。
呆れられる可能性だって、じゅうぶんにあると思う。
……すると。
あたしの言葉を聞くと、やがて高桐先生が言った。
「…けど、それだって、例え寂しさは多少紛らわせたとしても、後で危険な目に遭うのは日向さんだよ」
「…」
「さっきのコンビニの前でのことだってそうだろ?あのまま連れて行かれてたら、今頃どうなってたか考えただけで怖いじゃん」
日向さんは怖くないの?
高桐先生はそう言うと、未だドアに手をついたまま、あたしをこの場から逃がしてくれない。
「…何が言いたいんですか?」
そしてあたしがそんな高桐先生にそう聞いたら、高桐先生が言った。
「今していることを、もう二度とやらないでほしい」
「!」
「確かに、俺のこととか…周りを羨ましく思う時だってあるかもしれないけど。
でも、日向さんは独りじゃないよ。確実に」
「…、」
「俺がいるから。俺が、日向さんの力になるから。だからもう…たくさんの男と付き合ったりとか、そんな危ないことはもう金輪際しないで」
高桐先生はそう言って、背後から静かにあたしの様子を伺う。
けど、背後からじゃあたしの表情が見れるわけもなくて。
あたしは、しばらくは顔を見られないようにしていたけど…やがて高桐先生の方に体ごと向いて、その近すぎる距離感で、言った。
「…どうして?」
「…?」
「どうして先生は…そういうこと、言うんですか?」