高桐先生はビターが嫌い。

むしろ行かない理由がない。

後藤先生がそう言うと、高桐先生は「出てこなくても平気だったよ」と呟くように言う。



「俺一人でも解決できてたし」

「解決ってナニ?っつか生徒泣かせてるけど。ね、どんな話してたの。教えてよせっかくだから」

「っ、それはダメだよ!」

「…何で」

「そ、そりゃあ…日向さんが真剣に悩んでるからに決まってるじゃん!」



そう言うと、「ね?日向さん」とあたしに同意を求めてくる高桐先生。

一方のあたしは、さっきの後藤先生のいきなりの登場に、涙は少しずつおさまってきてはいるけど…。

だけど反応に困っていると、それを見た後藤先生が今度は冗談ぽく高桐先生に言った。



「…奈央ちゃんに避けられてるぞ陽太。お前やっぱ奈央ちゃんにしつこく迫って、」

「えっ、ちがっ…違うって!ってか迫るって何!俺言っとくけど女の子にそんなことしないよ!?今のは、日向さんが言葉を選んでただけであって…!」

「わーかったわかった!教頭先生には内緒にしといてやるから、ちょっと落ち着け」

「!!…っ、だからー!」



後藤先生のそんな言葉を聞いて、冗談なのにそうやってムキになって必死で否定する高桐先生。

…何だかあたしはそんな高桐先生の姿がだんだん可愛く思えてきて、その上の後藤先生とのやりとりも面白く感じてしまう。

すごい必死だな。まぁ教師としてそこはそういうふうに思われたくないんだろうけど。

あたしがそう思いながら、自然と笑っていると…



「…日向さん」

「…?」



ふいに、高桐先生に名前を言われて顔を上げたら。

その時、横にいた後藤先生が言葉を続けて言った。



「うん。やっぱ、奈央ちゃんはそうやって笑ってる方が可愛いよ」

「!」



そう言って、優しい笑みを向けられる。

その言葉にあたしがビックリしていると、それをすぐ傍で聞いていた高桐先生が不満そうに言った。



「お前はすぐそうやってまた人の…」

「なに?」

「………何でもない」

「え、言えよー」
< 107 / 313 >

この作品をシェア

pagetop