高桐先生はビターが嫌い。

「…?」



…高桐先生…何を言うつもりだったんだろう…?

あたしは目の前の高桐先生の様子にそう思いながら、独り首を傾げる。

そんなあたしの前で、後藤先生は「気になるだろー」なんて高桐先生に問いただしてるし。

だけど、高桐先生は話を逸らす為かふいに自身が身につけている腕時計を見遣って、言った。



「!…あ、っつかもう23時近いじゃん!ヤバイ!」

「おい、話を逸らすん、」

「良い子はもう寝てなきゃ!」

「…は?おいっ」



そう言うと。

高桐先生はあたしのすぐ傍までやって来て、「遅くまで引き留めてごめんね」と謝ってくる。

だけど、何故かあたしにすぐに玄関のドアを開けさせると…



「じゃーね篠樹ばいばいっ」

「いやおい待てって!」



高桐先生は、先にあたしを部屋の中に入らせて。

その直後に、後藤先生から逃げるように高桐先生もあたしの部屋の玄関に入ってきた。



「せ、先生…!?」

「しー!静かに。あ、電気つけてくれる?」



そんな高桐先生にあたしがビックリしていると、真っ暗な中で高桐先生がそう言うから、あたしは手探りで玄関の電気を点ける。

その間に、高桐先生は内側から鍵をしめて、電気がついた直後にあたしを見遣った。

…部屋に帰って来た安心感。のはずが。再び急にやってきた高桐先生との“二人きり”に、頭がついていかないあたし。

外からは、高桐先生を呼ぶ後藤先生の声が聞こえるし。

…え、もしかして、今夜は高桐先生とここで一緒に…!?

…なんて、そう考えてビックリしていたら。

外にいる後藤先生の存在を気にしながら、高桐先生が言った。



「…あ、ごめんね。いきなり」
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