高桐先生はビターが嫌い。
「…?」
「…どうしても、1コだけ日向さんに言っておきたくて。さっきの話の続き。伝えたらすぐ帰るから」
そう言うと、ドアに背を向けて、高桐先生が真正面からあたしを見つめる。
すごく真剣な顔をするから、あたしはその目から思わず目を離せなくなって…。
内心ドキドキしながら高桐先生の言葉の続きを待っていると、そのうちに高桐先生が言った。
「…俺、日向さんのこと心配してるの、“教師として”…だけじゃないから。何かこう…一人の男として、何とかしてあげたいって思うん、だ。
で、それでちょっと考えて…一つ提案なんだけど…良かったらさ、これからは…夕飯、二人で食べよ?」
「!」
「あ…ほら、その方が何か…日向さんも寂しくないっていうか。これからもし毎日そうしたら、日向さんが、今日みたいな危険な目に遭うことも、減るんじゃないかなって」
「…、」
「外食、とかはさすがに無理だけど、日向さんさえよければ、この前ロールキャベツ作ってくれた時みたいに…ここで一緒に、とかさ。あ、もちろん食費は払うし!」
高桐先生はそう言うと、「どうかな?」と少し首を傾げてあたしを見つめる。
その視線とまさかの言葉に、一方のあたしは思わずビックリして…だけど。
ビックリした直後、心の底から沸々と嬉しさがわいてきて、気がついた頃にはもう、笑顔を隠せなくなっていた。
「…っ、」
「…日向さん?」
「嬉しい!先生!」
「!」
満面の笑顔を浮かべてしまった瞬間。
あたしはそう言うと、思わず目の前の高桐先生に真正面から思い切り抱きつく。
勢いが良すぎて高桐先生が後ろのドアに軽くぶつかってしまったけど、それでもあたしは言葉を続けて高桐先生に言った。
「じゃああたし、高桐先生のために料理頑張りますね!」