高桐先生はビターが嫌い。
「…?」
…反則…?
って、何が?何のこと…?
けど、あたしがそう疑問に思っている間に、ゆっくりと引き寄せていた高桐先生の手が、少し戸惑い始める。
抱きしめられているわけではないけど、それでも普通じゃないくらいの近すぎる高桐先生との距離感。
…でもあたしは、嫌じゃなくて。
むしろもう少し近づきたくて、でもそれを言葉にはしないで、高桐先生のことを見上げる。
…高桐先生の顔が少し赤い気がするのは、気のせい…なのかな。
けど、そんなことを思って待っていたら。
「っ……ごめん、」
「?」
「何か今……教師らしくないこと、するとこだった。…っつか、半分してた…かも」
「!」
そう言って、突如、あたしを自身から引き離した高桐先生は。
その時あたしの両肩から手を離して、そう言った。
「…先生…?」
「あ…て、ていうかさ、じゃあ、明日!明日から夕飯一緒に食べよ?日向さんの料理、俺期待してるから」
「!」
「じゃあね。おやすみ、」
そして高桐先生は不自然に話を変えると、そう言って、あたしの目を見ないままドアを開けて逃げるように出て行ってしまう。
よくわからないその背中をまだ引き留めていたい気持ちはあったけど、でもあまりにも高桐先生が速いから。
呼び止める隙も、なかった。
『………日向さん。ソレ、反則だから』
…あれって、どういう意味だったんだろ…。