高桐先生はビターが嫌い。
「!」
そう言って、先にすたすたと廊下を渡ってリビングに入っていく。
そんな背中に、更に嫌な予感が脳裏を過る俺。
……いやいや、陽太に限ってそんなこと。ないとは思う。思うけど。
でも実際、教師(こいつ)だって男なわけだし。
俺は独りそう思うと、その背中を追いかけながら言う。
「…聞かないでって。そりゃあ聞くだろ。っつか余計に怪しい」
「いや怪しくないよ」
「怪しいだろどう考えたって」
そう言うと。
リビングのソファーに横たわる陽太の近くに行く。
生徒じゃない女の子とのことだったら俺だってもちろんここまで聞いたりしないけど、でも今のこの状況は見逃したりするわけにもいかない。
いかないから、俺は陽太に言った。
「……お前さ、諦めるとか言ってたじゃん」
「え?」
「え?じゃなくて。奈央ちゃんのこと。諦めるって言ってたの誰だよ」
「!」
そう言うと、俺は陽太をじっと見つめる。
これは本当にそう。もちろん諦めるんだろうなぁとは思っていたけど、実際にそれを聞いて少し安心していたし。
教師だから、教師として、奈央ちゃんとは何の問題もなく、別の何の感情も持たずに接していきたいと思っていた。
もちろんこれからもそう。
……けど、陽太はやっぱり違うんか。
俺がそう思っていると、陽太が言う。
「…諦めるよ」
「…」
「それはブレてない。俺は日向さんのことは諦める」
「じゃあ、」
「けど実際ほっとけないじゃん。この状況は」