高桐先生はビターが嫌い。
******


そして、その翌日。

数学の授業中。

高桐先生が、xとyを使った数式を、黒板に書いていく。

窓の外は眩しいくらいの青天。

外に目を遣って、もう一度黒板に目を戻すと、説明中の高桐先生と目が合う。

…やばい。

そう思って、咄嗟に教科書に目を落とせば。

高桐先生が、あたしの名前を口にした。



「じゃあ、日向さん」

「!…えっ」

「この問題を、前に出て解いてみて」

「!」



…きた。

これを避けたくて、目を逸らしたはずが。

あたしはそう言われると、渋々椅子から立ち上がって黒板の前に向かう。

別に勉強は、苦手じゃないんだけど。

数学だって…それなりに。

…だけど。


「…さっきまでの、基礎からの応用だからね」

「!」

「ちょっと難しいよ」

「…~っ」


なんて、高桐先生はそう言って、あたしにチョークを手渡す。

…チョークで少しだけ白くなった、高桐先生の手。

あたしはそれを受け取ると、早速その問題の前に立った。

でも…。

……はぁ、確かに、わけがわからない。



「…すみません」

「うん?」

「わかりません」



ほんの少し考えて、そう言って助けを求めるようにチラ、と高桐先生を見れば。

そんなあたしの様子を見て、「じゃあ変わるか」と優しい高桐先生の顔。

そして言葉を続けて言った。



「じゃあ、市川さん。わかる?」
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