高桐先生はビターが嫌い。

「えっ」


あたしが自分の席に戻っている最中に、高桐先生が市川にそう言う。

けど、いきなりあてられた市川は、もちろん凄く嫌そうな声を上げた。


「いやあたしもわからんし」

「え、でも市川さん数学の成績は常にトップだって…」

「それはっ…勉強したからだし」

「そっか。努力家なんだね」

「!」



市川のその言葉に、そう言って笑顔を浮かべる高桐先生。

その笑顔が凄く眩しくて、思わず見とれると。

高桐先生が教科書に目を遣って言った。



「…じゃあ今のところを……あー、時間ないんで今週中の宿題に、します」



でも、難しいから正解出来なくてもいいよ。

高桐先生がそう言うと、やがて授業の終わりを告げるチャイムが鳴った。


…………


「ね、ねぇ日向」

「え?」


全ての授業が終わったSHR。

早速帰ろうと席を立つと、その時ふいに市川に声をかけられた。

実はこの前仲直りしてから、何度か一緒に帰ったりしているあたし達。

今日もその誘いかな、なんて思っていたけど…。

でも、市川が口にしたのは、意外な言葉だった。



「あ…あのさ、今から、高桐のとこ行かない?」

「え、何で。急だね」

「だって…しゅ、宿題…わかんないじゃん」

「ああー…そっか。確かにね」



あたしは市川の言葉にそう言うと、机の中から教科書を取り出す。

けど、一緒に聞いてもいいの?

個別の方がわかりやすくないかと思ってそう聞いたけど、市川に「高桐が何度も説明しなきゃいけなくなるから」と言われて、あたしは納得した。

…それもそうだな。じゃあ今のうちに市川と行っておこう。


そしてあたしは市川の誘いに頷くと、やがて一緒に教室を後にした。
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