高桐先生はビターが嫌い。

…………


「失礼しまーす」


その後、ようやく到着した職員室。

ドアをノックしてそこを開けると、高桐先生は奥の方で何やら真剣にあたし達のクラスの担任である佐藤先生と話をしていた。

…あ、今はまずいかな。

だけど、あたしがそう思っていると、あたしの前にいる市川が「行くよ」と躊躇いなく高桐先生の方へと向かう。



「え、あっ…」

「高桐、先生!」



そして、そんな市川の背中に慌ててついて行くと。

ふいに、市川がそうやって高桐先生を呼んだ。



「…?…あ、市川さん?と…日向、さん」



高桐先生はいったい佐藤先生と何を話していたのか。

市川がそう呼ぶと、高桐先生がこちらに顔を向ける。

きっと仕事の話をしていたんだろうけど、邪魔じゃなかっただろうか。

だけどそう不安になっていたのはあたしだけじゃなかったみたいで、市川が言う。



「あ…い、今、大丈夫…ですか?」

「…あー、と」



市川が高桐先生にそう問いかけると、高桐先生は少し考えるようにして話していた佐藤先生の方へと目を遣る。

すると隣にいたその佐藤先生が、高桐先生に言った。



「…まぁ、続きはまた後でも。今は目の前の生徒が最優先だから」

「は、はいっ」



佐藤先生にそう言われて、高桐先生が「失礼します」と佐藤先生から離れる。

そのあと「どした?」と優しく問いかける高桐先生に、何故か隣で言葉を詰まらせる市川。

そんな市川の様子にあたしは首を傾げながら、高桐先生に言った。



「あ…数学の宿題が、難しすぎて」

「ああ、今日のやつね?」

「教えてほしいんですけど」

「お、偉いじゃん二人とも!」
< 121 / 313 >

この作品をシェア

pagetop