高桐先生はビターが嫌い。

あたしが昨日のことを独り考えていると、ふいに上からそんな声が降ってきて、高桐先生が教室のドアを開けた。

教室には他の生徒が数人だけ残っていて、突然の高桐先生の登場に、女子生徒達が嬉しそうに言う。



「あれっ、高桐先生!」

「あ、ほんとだ!高桐先生だー!」

「先生どうしたのー?」



女子生徒達はそう言うと、真っ先に高桐先生に駆け寄ってくる。

さ、さすが…高桐先生イケメンだからね。

そんな高桐先生の人気ぶりにあたしが思わず圧倒されていると、高桐先生が女子生徒達に言った。



「今から数学の勉強会ー。今日出した宿題のね。君らもする?」

「えー…勉強かぁ」

「いやいや、露骨に嫌がるじゃん。めっちゃ嫌そうな顔するじゃん」

「高桐先生は好きだけど、数学はちょっと……」



女子生徒達はそう言うと、「じゃあ、頑張ってね」とあたしと市川にそう言って帰ろうとする。



「…うん。また明日」

「ばいばい」



……何だろう。今一瞬だけ…高桐先生の顔が曇ったのは気のせい…かな。

だけどあたしがそんなことを考えているうちに、もういつも通りの表情に戻った高桐先生が、あたし達に言った。



「…じゃ、座って。早速はじめよっか」



そう言って、他の生徒達の机を借りて、それを隣同士にくっつける。

あたしと市川が隣同士に座って、その前に高桐先生が椅子に腰を下ろした。

わ…何か、この感じが新鮮。

あたしがそう思っていると、高桐先生が言う。



「…じゃあ、まずは基礎からおさらいね。教科書の───…」



高桐先生がそう言うと、何だか妙に心地が良い勉強会が開始された…。
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