高桐先生はビターが嫌い。
…………
「宿題終わっちゃったね」
「…そ、だね」
居残りからの、静かな帰り道。
あれから高桐先生による勉強会が開始されて、だけどそれが終わったのは意外とすぐだった。
でも、それもそのはず。
そもそも出された宿題の問題数はたったの4問だし、基礎からおさらいをしてもらっても、実際には一時間もかかっていない。
あたしがそう言うと、市川が何故か少し残念そうに頷く。
「…どうかした?」
そんな市川の様子にあたしがそう問いかけると、市川は少し考えたあと、「…いや、何でも」と言葉を濁らせた。
でも、気になるなぁ。何かあったら言ってくれればいいのに。
その様子だと絶対何かあったでしょ。
そもそもこの前の電話で仲直りの時に「何でも言い合えたら」とか言ってたのは市川の方だし。
そう思ってあたしがそう言うと、市川が何故か少し恥ずかしそうに言う。
「…や、ほんと、マジで何でもないから」
「ええ、気になるよ。あたしが何かしたなら謝るから」
「違う違う、そんなんじゃなくて」
「じゃ何?市川、今日変だよ」
そう問いかけて、ふいにお互いに歩く足がピタリと止まる。
その時に吹き抜ける、心地が良い春風。
その風で少し乱れてしまった髪を手ぐしで整えていると、ふいに市川が言いづらそうに口を開いた。
「…じゃあ…誰にも言わないって、約束してくれる?」
「うん?あ…う、うん。約束する」
「ほんと?」
「うん、ほんと」
…っていうか、ほんとに、何なんだろう。
あたしがそう思っていると、やがて市川が思いきったように話し出した。
「……あたしね、高桐…先生のことが、好きなの」
「…え」
「好きに、なっちゃったの。惚れたの」