高桐先生はビターが嫌い。
市川はあたしにそう聞くと、何気なく首を傾げる。
市川は、この学校の生徒で唯一あたしが色んな人と遊んでいることを知っているから。
あたしはその問いかけに一瞬、何故か高桐先生の姿が浮かんだけれど、「まさか」と首を横に振って、市川に言った。
「…今は、いないかな。市川の言う通り、ずっと本命くんはいないままだよ」
「作ればいいのに…好きな人くらい」
「うーん…まぁね」
「…あ、そういえば合コン行ったって言ってなかった?この前。そこでたまたま高桐先生と偶然出くわしたって…」
「!」
市川のそんな言葉に、あたしは思わず勢いよく市川の方を見遣る。
市川が言っているのは、きっと…いや絶対、新学期そうそう高桐先生にあたしが実は学生だってことがバレて、みんなの前で言われた時のことだ。
そして、そんな市川にあたしは言った。
「い、いい今それを言う!?」
「え、だめ?ずっと気になってたよあたしは」
「…~っ」
「で、どうなの?高桐先生、彼女いるの?知らないわけないよね?偶然合コンに居合わせたんだし。あたし、そっちが気になっちゃって」
「…、」
市川はそう言うと、本当に不安そうにあたしを見つめるから、あたしはそんな市川の様子に何だか少し安堵する。
…よかった。出来ればその合コンの時の話題は避けたい。
だからあたしは、そんな市川に言った。
「彼女は…いないんじゃないかなぁ。好きな人いないって言ってたし、多分」
「え、ほんと!?」
「うん。あたしの記憶が正しければだけどね」
あ、なんならあたしから高桐先生に聞いてあげよっか?
あたしが市川にそう言うと、市川は嬉しそうに頷いて見せる。
…まぁどうせ、今夜また逢うわけだから。
あたしと市川は、その会話が“ある人物”にこっそり聞かれていたとは知らずに、
やがて「また明日ね」と手を振ってその場で別れた…。