高桐先生はビターが嫌い。
…………


「…どうしたの?」

「なんか、珍しく怖い顔になってるよ」

「!」



その夜。

夕方の市川との会話を思い出しながら、静かにタイミングを伺っていると。

ふいに隣から声がして、思わず高桐先生の方を向いた。

…今はもう、気が付けば夕飯の時間。

今日はパスタを作って、キッチンの向かい側。

今はこうして、カウンターになっているキッチンで、約束通り高桐先生と並んで食べている。

あたしはそんな高桐先生の言葉に、少し慌てて言った。



「え、こわ、怖い顔って…どんな!」

「うーん…なんか、あることを真剣に考え込んでる感じ?」

「!」

「せっかく数学の宿題終わったのに、あのあとなんかあった?」



高桐先生はそう問いかけると、心配そうにあたしを見遣る。

ああ、いつのまにか顔に出ちゃってたか…。

あたしはそんな高桐先生の言葉を聞くと、少しの間また考えた。


…市川のためにも、高桐先生に聞いてあげたい。再確認がしたい。

「高桐先生って、好きな人とかいないんですか?」って。

でも、どう聞いたらいい?

だって、昨日の今日なわけだし。昨日はあたし、高桐先生に…



“…俺、日向さんのこと心配してるの、“教師として”…だけじゃないから”

“一人の男として、何とかしてあげたいって思うん、だ”



何だか、抜け駆けっぽくて嫌な気もするけど、昨日のアレを思い出すと何だか少し聞きづらい。

…いや、でも、今はそんなこと関係ない…よね。市川の為だし。

あたしはそう思うと、顔を上げて、高桐先生に言った。



「…あ、あの、先生」

「うん、何あったの」

「先生って、つまりその……と、友達は、どれくらいいるんですか?」
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