高桐先生はビターが嫌い。
「……え」
高桐先生のそんな言葉を聞くと、その瞬間に、何故かあたしの心臓が嫌な音を立てだす。
…いるんだ。
そう知った瞬間に、これ以上は「聞きたくない」なんて思ってしまった。
だって、そんな言葉…本当に返ってくるなんて思わなかった。
だけど一方の高桐先生は、そんなあたしの心情を知ってか知らずか、言葉を続ける。
「…だから、一緒にいる空間が、俺にとって幸せ…なんだよね。相手の子はどう思ってるかわからんけど」
「…、」
「………日向さんは、今…」
「…?」
そして、何かを言いかけた高桐先生が、優しい口調でそう言って、あたしの方を見遣る。
目が合ったその瞬間、何故だかその視線から逃げられなくて、数秒くらい見つめ合う状況になってしまう。
…先生…?
まるで金縛りに遭ってるみたい。
何故だかドキドキしてしまっていると、やがて高桐先生がふっと笑って言った。
「…ん、やっぱ何でもない。忘れて、今の」
「え、」
「じゃあ、俺そろそろ帰るわ。いい加減篠樹に怪しまれるし」
そう言うと、「ごちそうさまでした」と手を合わせて、その場を立つ高桐先生。
だけどあたしは、今は笑顔すら浮かべることも出来ずに…思わずその場で見送りそうになる。
…高桐先生の好きな人って…だれ…?
聞いてみたいけど絶対聞きたくなくて、だけど何でもないフリをして高桐先生と一緒に玄関に向かう。
「じゃあね、ありがと。また明日学校で」
「…あ、ハイ。…おやすみなさい」
「…、」