高桐先生はビターが嫌い。









******



「なーおちゃんっ」

「!」



ある日の放課後。

家に帰ろうと教室を出たら、そこで聞きなれた声に名前を呼ばれた。

…この声は、

そう思ってゆっくり振り向くと、後ろにはやっぱり声の主である後藤先生がいて。



「…せんせい」



相変わらず、場所とか関係なく普通に名前にちゃん付けで呼んでくるんだな。

…嬉しいけど。

そう思いながら立ち止まったままでいたら、後藤先生がそのままあたしの近くまでやって来て言う。



「いま帰り?早いね」

「部活とかやってませんから。先生は何を…」

「俺は職員室戻るとこ。っていうか部活。奈央ちゃん入ればよかったのに。良い思い出になるよ。まぁ今更だけど」

「…いや、まぁ…」



確かに、部活に対しての憧れは少なからずあったんだけど。

たいていの部活には、部費が、ありまして。

ただでさえ父親との関係は良くないし、余計なお金は使いたくないから入らなかった。

そんな時のことを思いながら、



「ていうか先生…もしかして…あたしに何か…」



用ですか?

…しかし。

あたしがなんとなくそんな気がして聞こうとしたら、そのとき他の生徒の挨拶でそれを遮られた。



「後藤せんせーじゃーねー!」

「あほ。さようなら、だろ」

「さよーならー!」

「あい。気を付けてね」


「…」



後藤先生って、誰にでもフレンドリーだよね。

そう思ってその様子を眺めていたら、生徒に手を振ったあと、後藤先生がふいにあたしに言う。



「……なんだ、バレた?ちょっと奈央ちゃんに聞きたいことがあるんだけど」

「?」
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