高桐先生はビターが嫌い。
とりあえずちゃんと伝わっていたことに安堵しつつ、あたしは後藤先生に耳を傾ける。

…そんなに、むしろ全然身構えてなんていないし、後藤先生が言おうとしている言葉に対して不安もなかったけど。

その瞬間後藤先生が口にしたのは、意外すぎる言葉だった。


「…噂で聞いたんだけど。あ、俺は信じてないからねもちろん」

「…何ですか?」

「付き合ってる、って…聞いたんだ。陽太と奈央ちゃん」

「っ…!?」



後藤先生が、そんな意外すぎる言葉を口にしたその直後。

あたしはあまりにもビックリして、思わず持っていた鞄を床にボト、と落とした。

…え…付き合ってる?つきあってる?ツキアッテル?

あたしと、高桐先生が?なんで、そんな噂が…?なんで…?



「や、まさか…そんな、」

「うん。俺は信じてないよ。あ、大丈夫。次言われたら否定しといてやるよ。心配しなくていいかんな」

「いや、あ…」

「?」



その噂に、あたしは嫌な予感がして、思わず後藤先生を見つめる。

だって、その噂が本当に出回っているのなら、確実にヤバいのよ。

っていうかなんでこんな噂がいきなり流れたんだろ…。

夕飯のことは、あたしと高桐先生しか知らないはずで……あ、それとも合コンかな。

あたしがそんなことを思って不安でいると、あたしのそんな様子に気がついたらしい後藤先生が言う。



「…どした?奈央ちゃん。なんか顔色が悪……え、もしかしてマジとかじゃあっ、」

「!?ち、違います!そんなわけないです!ただちょっとビックリしてっ…」



…だって、噂が流れているのなら、市川の耳に入るのも時間の問題じゃない?

そう思っていると、後藤先生が言った。



「だよね。…まぁ、俺もその噂聞いたのさっきだし。…でも、陽太の耳に入るのも時間の問題だろうけど」

「!」

「…大丈夫だよ奈央ちゃん。所詮ガセの噂なんだから、そんな気にしなくても」



後藤先生はそう言うと、「しかし噂ってこえぇな」なんて呟いて、もうその場を後にしようとする。

だけど一方のあたしは、まだ行ってほしくなくて、不安すぎてその背中を呼び止めた。



「っ…ま、待って下さい!」

「!」
< 133 / 313 >

この作品をシェア

pagetop