高桐先生はビターが嫌い。
必死でそう呼び止めて、思わず後藤先生の腕をがしっと掴む。
そんなあたしの言動を、他の通りすがりの生徒達が不思議そうに見ている。
…けど、今はそんなの関係ない。
いくらガセとはいえ、こんな噂は広めたくない。
だからあたしは、不思議そうに「どした?」と首を傾げる後藤先生に言った。
「どした?いきなり…なんか奈央ちゃんらしくない」
「…助けて下さい」
「…え」
「今そんな噂、これ以上広まったら困るんです。だから後藤先生、あたしを助けて下さい今すぐに」
「…、」
あたしがそう言うと、目の前の後藤先生が少し困ったような表情を浮かべる。
いや、困らせてるのは当たり前だとも思う。
だってこの噂はきっと、あたし自身が蒔いた種。
…はっきり言って後藤先生は関係ない。
だけど…
「……お願いします、」
「…」
あたしが小さめの声でそう言うと、後藤先生は少し考えたあとやがて「…じゃあ、話聴くよ」とあたしの手首をとってその場を後にした。
ただ…あたしは、
「………篠樹?なんで…」
そんな姿を、偶然高桐先生に見られていたとは知るよしもない。
そしてその高桐先生の背後で、
「……高桐先生」
「…?」
「ちょっといい?…話があるんだけど」
ある女子生徒が、不敵な笑みを浮かべて歩み寄った…。