高桐先生はビターが嫌い。

「!」



…ドキリ。

市川のその言葉に、あたしの心臓が自然に、静かにそう反応する。

…高桐先生、と。

だけどあたしは、隠さなきゃいけないその心を隠して、咄嗟に笑顔を浮かべた。

何でも言い合える仲に。

市川は、あたし達のことをそう言ってくれたけれど…。



「…じゃあ、この遠足を機に一歩でも近づこ!」

「ええー。そうしたいのはやまやまだけど…でも、」

「あっ。じゃあ、あたしが協力してあげる!」

「えっ」



…同じ過去は繰り返したくないから。

言えない。

もう失敗したくない。

だからあたしは、笑顔を浮かべて、そう言った。



「んー、まずはやっぱり、高桐先生と二人きりになりたいでしょ?市川だって」

「そりゃあなりたい…けど、大丈夫なの?」

「平気だよ。任せて、」



あたしははっきりそう言うと、早速市川の手を取る。

とりあえず今考えている作戦を並べると、まずはあたしから高桐先生を誘ってみるんだ。

市川と一緒に。「一緒に回りませんか」って。

上手くいけば高桐先生なら頷いてくれるはずだから、途中であたしがはぐれれば市川と高桐先生は2人きりになれると思う。

…うん。上手くいくかはわからないけど、とりあえずやってみよう。

しかし、そう思いながら高桐先生に近づくと…



「ね、ね、高桐先生!一緒にジェットコースター乗ろ!」

「ねぇ先生一緒に写真撮ってー!」

「だーめー!高桐先生はあたしと回るの!」



…うわ。

やっぱり、あたしの考えは甘かったようで。

高桐先生は早速、遊園地の入り口で女子生徒達に囲まれていた。
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