高桐先生はビターが嫌い。

「…え、あ…なんか、ヤバイね」


少しもこういう予想がつかなかった。

…というわけではないけれど、実際にこの光景を目の当たりにすると、さっきまでのやる気が一気に萎んでしまう。

しかも、こうやってモテている感じが、やっぱりすごく……アレで、

しかし、そう思いながらその光景を見つめていたら…ふいに市川が言った。



「…ね、ねぇ、やっぱ、あの状態じゃ高桐先生だって無理だよ」

「…、」

「今回は諦めて、2人で楽しんじゃお?」

「…、」

「あたしは平気だから、日向」



市川がそう言って、あたしを見遣る。

…フクザツ…ではあるけれど、友達としてなんとかしてあげたかった。

…本当に、フクザツなんだけど。

きっと、市川だって面白くないよね。内心は。

あたしはそんな市川に、沈んだ声で言う。



「…ごめん」

「大丈夫だって。行こ!せっかく来たんだし楽しむぞ!」

「うんっ」



…でも、そんなあたし達の姿を。



「…、」



遠目から、何気なく高桐先生が見つけていたことを、あたし達は知らない。

高桐先生の視線の先。

市川の背中を見ると、高桐先生はこの前のことを思い出していた。

放課後の廊下で、いきなり女子生徒に言われた言葉を。



“……高桐先生。ちょっといい?…話があるんだけど”

“?…どしたの、急に。俺ちょっと今…”

“市川がね。クラスの市川が、高桐先生のこと…好きみたいなの”

“ああ。それは教師としては嬉しいな、”

“じゃなくて。市川は高桐先生に、恋してるんだよ”



「…っ、」



…この前、あのコにいきなりそう言われてビックリしたけれど。

それって本当…のこと、なのかな。

高桐先生はそう考えながら、そのうちにふと、あたし達から視線を逸らした…。
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