高桐先生はビターが嫌い。
…………


「ビビりすぎだよ日向!」



園内のベンチに座るあたしに、市川がそう言って笑ったのはお昼の12時を回った頃だった。

相変わらずの賑やかな園内。

同じ制服を着た生徒達もたくさん行き交うなか、そんなあたしの隣に、市川も腰を下ろして言葉を続ける。



「たかがジェットコースターでしょ?」

「されどジェットコースターだよ。意味わかんないあんなの乗れないコワイ」

「だーいじょうぶなのにー」



…さっきからあたし達が何を言っているのかというと。

遊園地で遊び始めて、約一時間が経った頃。

市川がいきなり「ジェットコースターに乗りたい」なんて言うから、とにかく絶叫系が苦手なあたしはさっきから「絶対に嫌だ」とごねまくっているのだ。

…確かにね。知ってたよ。

この遊園地は、大きなジェットコースターが有名で、しかもそれが二種類もあること。

知ってたけどさぁ…。



「無理だよ乗れないよー。そんなの自殺行為じゃん、ダメじゃん。ダメ、絶対」

「クスリみたいに言わないで。純粋に楽しい巨大アトラクションだよ」



せっかく来たのにさー。

市川はそう言うと、少し口を膨らませる。

…これは申し訳ないけど、本当にダメなんだよね…。

しかし、そう思いながら何気なく市川から視線を外すと…



「…あ!」



あたしはその時、園内の向こうである人影を見つけた。



「あれ高桐先生じゃない!?」

「えっ」



あたしがそう声を上げると、その名前に反応した市川がすぐに高桐先生を目で探す。

そしてあたしはそのうちにふと良いことを思いついて、市川に言った。



「!…市川、高桐先生とジェットコースター乗って来なよ!」
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