高桐先生はビターが嫌い。
…本当は、凄く複雑になってしまう心を押し殺して、あたしはそう言うと笑顔を浮かべる。

あたしが誘ってきてあげるから、と。

果たして上手く出来るのかどうかは謎だけど、少しは頑張って応援…協力してあげなきゃ。

だけどあたしのそんな提案を聞くと、市川が恥ずかしそうに言った。



「え、ええー…。でもほら、高桐先生人気者…だし」

「何言ってるの、今大丈夫そうだよ!他の先生と一緒にいるだけだよ!」

「ううーん…」

「…、」



…とは言ったものの、何故か高桐先生、若い女の先生と二人でいるのが気になるんだけど。

しかもその先生は、今朝他の先生の説明中に何気なく笑い合っていた例の女の先生。

…なんか。やだ。けど、やだって思うことが嫌だから。



「…いま行かないと、後で後悔しちゃうかもよ?」

「!」



あたしがそう言うと…



「……そう、だね。うん。確かにそうかもしんない」



やがて市川が頷いて、あたしは代わりに誘いに行くことにした。



「高桐先生!」



一旦ベンチから離れ、あたしは市川を連れて早速高桐先生の元へと駆け寄った。

あたしがそう呼ぶと、高桐先生はすぐにあたしの声に気が付いて…



「あ、日向さん。と、市川さん」



なんて。不意打ちに、そう言ってふんわり笑顔を浮かべるから、先生はずるい。

だけどその笑顔に流されないように、あたしは頑張って高桐先生に言った。



「あの、先生いま大丈夫ですか?」

「大丈夫って、どしたの」

「市川と一緒に、ジェットコースターに乗ってほしいんですけど」

「!」

「あの、あたしはその…絶叫系とかは苦手なんで」



まぁ実際、だからと言って一人で…ていうのもなんかね。

そう思いながらあたしが言うと、高桐先生は一瞬目をぱちくりさせていたけれど…
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