高桐先生はビターが嫌い。
「…うん。いいよ。俺ジェットコースター好きだし」
「!…じゃあっ…」
「あ。杉野先生も、一緒にどうですか?」
「…え」
しかし、高桐先生はそんな思いもよらぬ言葉を口にすると…
一緒にいたその若い女の先生、杉野先生のこともそう言って誘ってしまった。
…え、や…違う。先生、それは…
そしてまさかの展開に内心慌てるあたしと市川をよそに、一方の杉野先生も「いいんですか?」なんて喜んでしまう。
いや、いいんですかじゃなくて…よくないよ!
それでもまさかここで本当のことを言うわけにはいかなくて…
「じゃあ、三人で行ってくるね。日向さんはそこで待っててよ」
「…ハイ。行ってらっしゃい」
高桐先生はあたしにそう言うと、本当に、三人で行ってしまった。
そんな市川の背中を見つめながら、あたしは少し離れた場所で思わず「ゴメン!」と両手を合わせる。
市川は気づいていないけれど…でも、高桐先生と全く思い出を作れなかった…というよりはマシ、としておこう。うん。
あたしは三人の後姿を見送ると、再び近くのベンチに座った…。
「…ふあ…」
……そして、独り、欠伸をしながらふと思う。
あたしも、高桐先生と一緒に園内を回れたら…なんて。
思わずそう考えてしまうけれど、あたしはその思いを半ば無理矢理に封印した。
“本当に噂になるようなことだけは、もう少し控えて”
後藤先生から、この前言われた言葉が重たくのしかかるから…。
高桐先生には、あたしの気持ちは全く届いていない…はず。
あたしがなんとなく顔を上げてジェットコースターを見上げると、その時、
そこから黄色い悲鳴が空に響いた…。