高桐先生はビターが嫌い。

「…うん。いいよ。俺ジェットコースター好きだし」

「!…じゃあっ…」

「あ。杉野先生も、一緒にどうですか?」

「…え」



しかし、高桐先生はそんな思いもよらぬ言葉を口にすると…

一緒にいたその若い女の先生、杉野先生のこともそう言って誘ってしまった。

…え、や…違う。先生、それは…

そしてまさかの展開に内心慌てるあたしと市川をよそに、一方の杉野先生も「いいんですか?」なんて喜んでしまう。

いや、いいんですかじゃなくて…よくないよ!

それでもまさかここで本当のことを言うわけにはいかなくて…



「じゃあ、三人で行ってくるね。日向さんはそこで待っててよ」

「…ハイ。行ってらっしゃい」



高桐先生はあたしにそう言うと、本当に、三人で行ってしまった。

そんな市川の背中を見つめながら、あたしは少し離れた場所で思わず「ゴメン!」と両手を合わせる。

市川は気づいていないけれど…でも、高桐先生と全く思い出を作れなかった…というよりはマシ、としておこう。うん。

あたしは三人の後姿を見送ると、再び近くのベンチに座った…。



「…ふあ…」



……そして、独り、欠伸をしながらふと思う。

あたしも、高桐先生と一緒に園内を回れたら…なんて。

思わずそう考えてしまうけれど、あたしはその思いを半ば無理矢理に封印した。



“本当に噂になるようなことだけは、もう少し控えて”



後藤先生から、この前言われた言葉が重たくのしかかるから…。

高桐先生には、あたしの気持ちは全く届いていない…はず。

あたしがなんとなく顔を上げてジェットコースターを見上げると、その時、

そこから黄色い悲鳴が空に響いた…。
< 143 / 313 >

この作品をシェア

pagetop