高桐先生はビターが嫌い。

あたしは隣の高桐先生にそう問いかけると、ふと先生に視線を遣る。

だって高桐先生も、ジェットコースター好きなんだよね?

さっきそう言ってたし。

しかし、あたしがそう聞くと…



「んー…俺はいいかな」



高桐先生は呟くようにそう言うと、ベンチの背もたれに背中を預けた。

でも、そんな先生の言葉を聞くと、あたしは何だか少し納得がいかなくて高桐先生に言う。



「え、せっかく来てるのに。だってこの遊園地のジェットコースターって有名なんですよね?」

「そうだね。まぁ多少は…楽しみにしてたよ」

「だったら…」

「でも、やっぱりダメだと思って」

「…?」



高桐先生はそう言うと、また一口ジュースを口に含む。

…オレンジジュースの味が、すっきりしてる。

あたしがそう感じた瞬間、高桐先生は思ってもいなかった言葉を口にした。



「…日向さんが、独りになっちゃうでしょ?」

「!」

「…と、思って。ジェットコースターに乗ってる最中にやっと気づいて、戻って来た」

「…、」

「俺…日向さんから聞いて、知ってるはずなのにさ。日向さんの孤独。ごめんね、気付くの遅くて」



高桐先生はそう言うと、少しビックリするあたしを見遣って申し訳なさそうな顔をする。

一方、そんなことを言われたあたしは、そういうことは気にしていなかったから…全然平気、だったんだけど。

でも、そう言われた瞬間…なんだか、何とも言えない感情に襲われて。

思わず、泣きそうになった。

泣きそうになったけど、高桐先生はそんなあたしに言葉を続けた。



「あの2人が戻ってくるまでは、俺が日向さんに付き合うよ」

「!」

「決めたから。俺は日向さんを独りにしないって」

「…先生」



あたしにそう言った先生が、ほんの少し照れたような顔をする。

なんだかくすぐったい…けど、その言葉は思った以上に嬉しすぎて。

もう…止められない。

この気持ちを、やっぱり簡単には封印できない。
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