高桐先生はビターが嫌い。

あたしはそう思いながらも、やがてようやく引きつった笑顔で口を開いた。



「ほんと、凄い偶然だねー…。ってか、どうしたのこんなところに」



そう問いかけて、やっとの思いで高桐くんに目を遣る。


無防備なパジャマ姿を見られたとか、

どスッピンの顔を見られたとか、

正直そんなことは関係なくなるくらい、あたしはわかりやすく動揺していた。

…マズイ。高桐くんも困惑してるよ。ってそりゃそうか。

一週間前、違うアパートに送り届けた女が、いきなり別の高級マンションから出てくるんだもんね。

あたしがそう思っていると、高桐くんの隣にいる男の人が言う。



「あ、俺達、隣の部屋に今日から引っ越してきたんすよ。だから挨拶くらいしとこうと思って」

「そ、そうなん…ですか」

「朝からバタバタしてて、うるさかったっすよね?」



そう言ってその人は、「あ、っつか俺ら手ぶらじゃん!」と高桐くんに目を遣る。

…しかしその一方で、わかりやすく口数が減っている高桐くん。

なんとかしなければ。


あたしはそう思うと、高桐くんに声をかけようと口を開いた。

けど…



「…あ、そういう、ことだったん…すね」

「え…」

「実は、このマンションで本命の彼氏と同棲してて、たまたま出てきたら…まさかの俺と再会した、と?」

「!」

「なんだ…彼氏がいるなら、もっと早く言ってくれればよかったのに」



高桐くんは勝手に解釈してそう言うと、少し落ち込んだような顔をする。

いや、違う!違うから!

だけど、一瞬、そのテもありかと考えたけれど、どうせすぐバレてしまう!とそれを否定した。



「っ…いや、違う!…違うん、です」

「?」
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