高桐先生はビターが嫌い。

マズイ!

あたしはその2人の声にいち早く反応すると、即座に高桐先生から離れようとする。

いまあたし達がいるところは、たくさんの商品棚に囲まれていて、比較的見つけられにくい場所ではあるけれど…。

だけど、高桐先生は離してくれない。

力強くあたしを抱きしめたまま、まるで離れることを許してくれないみたいに…

「だめ」と言われるようにまた、強く強く…抱きしめられる。

どうしよう…市川にバレる。見られる。バレる。

どうしよう、どうしよう…。

でも、そう思うのに…気が付けばあたしは…



「…、」



あたしも、そのままゆっくりと高桐先生の背中に、両腕を回してしまった…。

一旦、気が付いてしまった気持ちは、もうどうしたって止められないんだと思う。

先生の腕の中は、やっぱりすごく心地がよくて…。


先生…あたしも先生が好き。


思わず、そう言いかけてしまったけれど。

それはさすがに飲み込んだ。

無理矢理、心の奥に押し込んだ。

今はダメだ…どうしたって言えない。


でもたぶん、あたしも高桐先生の背中に両腕を回している時点で、「好き」と言ってしまっているようなものなんだと思う。

それでも今は離れたくなくて。

市川と杉野先生の声に、耳を傾けながら。


陽気な音楽が流れる広いお店の中。

あたしはただ、高桐先生の胸に身を委ねた。


ごめんね、市川…ごめん。

今は誰にも、この空間だけは邪魔をされたくない…。
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