高桐先生はビターが嫌い。
あたしのそんな否定に、高桐くんが顔を上げる。
そして交わる視線に、あたしは言葉を続けた。
「…まだ、出会ったばかり、だったから」
「?」
「本当の家の場所、知られるのが怖くて。前、送ってもらった時に家の場所を知られて、酷い目に遭ったことが、あったから…」
「!」
「だから……ごめんなさい。嘘、吐いちゃって」
あたしはそう言うと、高桐くんに向かって頭を下げる。
ちなみにこれは本当の話だ。
色んな男の人と遊んでいるせいか、あたしはある日家の場所を知られて襲われかけたことがあった。
だから、この高級マンションに数ヵ月前に引っ越してきたわけで。
それからというもの、この前の合コンみたいにあまり本当の家の場所を周りに簡単に教えるのはやめた。
傷つくのは、自分だから。
あたしが話すと、高桐くんは「…そうだったんだ」と呟いて、そのあと心から安心した顔をした。
「っ、良かったぁ…」
「…え、」
「あ、いやっ。っつか、こっちこそごめんね!じゃあこの前は、怖い思いさせちゃったよね?」
「…いえ、でもあの日はそんなことは…っていうか仕方ない、し」
「うーん…けど俺は、いくら知らなかったからって、出会ったばかりなのに非常識だったと思うし。これからは気を付けるよ」
そう言って、「これからはお隣同士よろしくね」と、優しい笑顔を浮かべる。
…良かった。とりあえずは、なんとかおさまってくれた…。
そのあとはお互いに軽く自己紹介をして、この時は静かにドアを閉めた。