高桐先生はビターが嫌い。

不意に、あたしの頭に高桐先生の優しい手がふんわり乗っかって。

ぐしゃぐしゃと、それを乱すと高桐先生が可笑しそうに笑って見せた。




「そんなに必死になんなくても。大丈夫。今のは冗談だから。言ってみただけ」

「……ビックリしたじゃないですか、もう」

「ごめんね。でもよかったよ。安心した。日向さんがちゃんと楽しんでくれてるみたいで」



じゃあ、買い物続けようか。

高桐先生は満足そうにそう言うと、また再びあたしのショッピングを再開させる。

…先生はずるい。

そういうふうに言われたら、卒業後まで…ちゃんと待てるかどうか、自信がなくなるじゃない。

どうせなら、今すぐ付き合って、繋がりを持って、ちゃんと甘えたい…なんて、思ってしまう。

あたしはそう思うと、我慢が出来ずにその手を高桐先生に伸ばして…


……けど。




「あ、いたいた!ね、見て二人とも!」

「!」

「!?」



その時。

あたしが高桐先生に向かって手を伸ばしたその瞬間、一緒に買い物中だった後藤先生があたし達の姿を見つけ、半ば興奮気味にそう声をかけてきた。

その突然の声に、あたしがビックリしてすぐに手を引っ込めると。

後藤先生があたし達に近づいてきて言う。



「見て!このTシャツの絵の男、陽太そっくりじゃね!?」

「えっ!?…いや似てないだろ!ってか俺こんな目細い!?」

「いや絶対似てる!ね、奈央ちゃんはどう思う?」

「!…え、」

「マジで、奇跡的なTシャツだよね」




後藤先生はそう言うと、あたしにもそのTシャツを見せてくる。

いきなりのことで、Tシャツをよく見ないままその言葉に頷いてしまったけれど…。

でも、一方のあたしの心臓はまだドキドキドキドキと高鳴っていて。

高桐先生に近づきたい気持ちが…後藤先生を前にしてもおさまらない。
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