高桐先生はビターが嫌い。
…鋭い後藤先生のことだ。
今のを例え見られていなくても、雰囲気だけでバレてしまうことだってありそう。
あたしはそう思うと、普段通りを装って高桐先生に言った。
「運命的なTシャツじゃないですか。高桐先生似合いますよ」
「えー…けど……うーん、まぁ…」
「ほら、奈央ちゃんもそう言ってるじゃん。いっそのことお買い上げすればいんじゃね?」
後藤先生はそう言うと、「はい」とそのTシャツを半ば強引に高桐先生に持たせようとする。
…よかった。なんとか普段通りに出来てるかな。
あたしがそう思って内心ほっとしていると、そのうちに高桐先生が言った。
「でもさ、何か嫌じゃね?」
「何が。いいじゃん、お前そっくりなんだから」
「いや、それだよ。どこの世界に自分そっくりの顔が描いてあるTシャツなんか着る奴がいるの」
「それはわからないだろ。いなくてもお前がその一人目になればよくね?」
「断るっ」
恥ずかしいだろ、と。
高桐先生はそう言うと、そのTシャツを元に戻すように後藤先生に言う。
そんな高桐先生の言葉に、後藤先生は少し残念そうにしながら、渋々言われた通りにそれを戻しにその場を離れた。
そしてしばらくしてまた戻って来ると、自身の腕時計に目を遣って、後藤先生が言う。
「…何か腹減らない?もう11時半なんだけど」
「え、マジか。もうそんな時間なの、」
「奈央ちゃんも、お腹空いてない?」
後藤先生はふいにあたしに目を遣ってそう問いかけると、あたしの返事を待つ。
実は今朝はこの先生二人に急かされたのもあって、あたしは朝ご飯は全く食べていないのだ。
それでも、ショッピングが楽しくてお昼ご飯のことなんか忘れてしまってたんだけど。
あたしは後藤先生の言葉を聞くと、すぐに頷いた。
「っ…空いてます!何か食べたいですっ」
…あ……でも、そういえば。